定年前にして惑い未だ天命を知らない

定年前のアラフィフおやじの呟き、思ったことを綴る

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実録:COCOAが鳴り、PCR検査を受けた女(その2)

 

Act.5 凛々子、PCR検査を受ける

 

凛々子は看護婦に呼ばれてテントの中に入っていった。

中で看護婦に簡単な説明を受けた。

今回はCOCOAが発報したことによる行政検査になるため、PCR検査の費用はかからないが、病院の初診料が必要となるため支払いが発生すること、ただし本日お金のやり取りはなく後日振り込みになること。

検査結果は明日の9時以降午前中までに保健所から電話で連絡すること。

検査結果が出るまでは外出を自粛することなどが主な内容だった。

健康保険証を指定されたトレイの上に出すと、タブレットで写真を撮られた。
完全に非接触を徹底しているようだ。

 

そして以前、風邪を引いたときにしたインフルエンザの検査よりも、感覚的に1.5倍くらい長そうな専用の綿棒を鼻から入れられて10秒程度グリグリを回された。入れられるだけでかなりの違和感なのにここまでグリグリされるとは、かなりの痛みだった。

「では検査結果は明日、保健所から連絡がありますので」と言われたので、そそくさとテントを後にした。

 

車で待機していた野々宮は、凛々子が検査を受けている間、自分の身体の周辺にアルコールスプレーを噴霧し、ハンドル、シフトギアなどをアルコールで拭き上げ、自分の感染リスクを必死に下げようとした。

 

検査が終わった凛々子が車に戻ってきたとき、何もなかったような平気な表情で車に迎え入れた。

「お疲れ様。あとは結果を待つだけだね」

野々宮は凛々子をねぎらった。

「今日は本当にありがとうございました。ちょっと怖くなって、検査を受けたくないなんて言って、申し訳ありませんでした」

凛々子は検査を受けたことで、少し心が落ち着いたようだった。

もう既に、まな板の上の鯉だから、という発言もしていた。

そしてそのあとは、検査についていろいろと話し出した。

保険証をトレイに乗せてタブレットで写真を撮られたこと、PCR検査の綿棒がすごく長かったこと、グリグリされて泣きそうになったことなどを一通り、車を運転中の野々宮に対して説明した。

 

野々宮は凛々子を待ち合わせの場所まで送り届け、凛々子に、検査結果を受けたら陽性でも陰性でもすぐに連絡するように、と伝えた。

そして凛々子が見えなくなったところの脇道で車を止めて、急いでアルコール消毒をした。自分の周り、凛々子が座っていたところや触ったドアノブなど、ウイルスが残りそうなところは全て拭き上げた。

仕事は休みを出していたので戻る必要はなかったのだが、心を落ち着ける意味もあって職場に戻って残務処理をした。

振り返って冷静に考えてみると、感染防止の観点からは戻らなかった方が良かったのかもしれない。

 

野々宮は、家に帰ると、まず手を入念に洗い、妻や子どもと話す前にすぐに風呂に入った。

一見、変なところにいったのではないかと怪しまれるような行動だが、そんなことを言っている場合じゃないと思った。

風呂上りには新しいマスクをつけて、職場で感染者が出るかもしれないので、今日の晩はマスクをすると説明した。

食事は無言で食べ、今、政府が言っている流行りの「マスク会食」のような食べ方をした。
寝る場所も、今日は一人で別の部屋で寝ることにした。もし自分に移っても、家族には迷惑はかけられないと思ったからだ。

高齢の親と住んでいないことを、今日ほど良かったと思ったときはないだろう。

 

Act.6 次の日の朝

 

野々宮が、翌朝起きると、寝るときに着けていたマスクは外れていた。

顔を洗い、自分の触ったものをアルコール消毒して、子どもと接触する前に朝早く出かけることにした。

昨日、病院で見た、完全武装の車の運転手を思い出し、神に祈った。

「凛々子さん、陰性であってくれ」

 

職場に出ると、いつもの通り、時差出勤早出の本村が新聞をチェックしていた。

「おはようございます。野々宮係長、今日は早出ですか」

本村が自分の憩いの時間を奪われたような表情で、驚いて話しかけてきた。

「朝早く目が覚めたから、そのまま出てきたんよ」

野々宮は気持ちのこもっていない返事をした。

凛々子への電話は9時以降午前中と言われていたので、こちらにかかってくるのは10時以降午前中くらいなのかなぁと思いながら、朝の電子メールをチェックした。

 

いつも通り会社は始まった。でも野々宮は集中できない。

凛々子から陽性だと電話があったらどうなるのか。

自分は車で15分以上二人きりになったので濃厚接触者は間違いないだろう。

隣の席にいる本村は濃厚接触者になるのだろうか。

新井さんは向かいの席だがアクリル板が間にあるので大丈夫なのかな。

課長には具体的な話はしていなかったので、陽性になった時点で詳しく説明することになるのだろうと思い、電話がかかってくるまで課長説明用のメモを打っていた。

 

9時5分、凛々子から電話がかかってきた。

「はい、野々宮です。凛々子さん、どうでしたか」

野々宮は早速質問した。

「野々宮係長、陰性でした。ありがとうございました。これからどうしましょうか。熱もないので出勤しましょうか」

凛々子は自分が起こした騒動のことよりも、陰性だった喜びにあふれた声で電話で話してくれた。

「良かったね。今日は念のため休んだらどう。眠れなかったんじゃないの」

野々宮は自分もあまり眠れなかったのに優しく話しかけた。

「ありがとうございます。では遠慮なく休ませていただいていいですか」

凛々子は遠慮せずにはっきりと答えた。やはり眠れなくて疲れたのだろう。

「いいよ。課長には私から説明しとくね。明日からはしっかりと頼むね」

野々宮は優しく電話を切った。

 

この後、野々宮は田端課長に顛末を説明した。

そして職場でのマスクの着用、アクリル板の設置、アルコール消毒の徹底を再度徹底しようということになった。

 

コロナの恐ろしさは、風邪のように自分がかかるだけではなく、他の人にも大きく影響することだ。

陽性者が出ると、同居家族は基本的に全員濃厚接触者になるので2週間程度の外出自粛。

そして仕事も学校も休まないといけない。

小さな店舗の経営者であればお店を休まないといけなくなる。

子どもの試験や受験に絡むと大変だ。いろいろなところに迷惑がかかる。

しかし外出自粛になっていながら黙って出勤したり、登校したりして感染を広げると、偽計業務妨害で訴えられたりする可能性もあるのだ。コロナの感染を隠して温泉に入った埼玉の男性が逮捕されたことは大きなニュースになった。

 

今回の凛々子の話では、最終的に「陰性」ということでホッとしたが、ワクチンができるまでは、マスクに手洗い、三密を避けて過ごすしかなさそうだ。

 

終わり(本当にホッとしました)

 

 

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修行僧 団彦一郎 ポーズをとる

 

 
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