定年前にして惑い未だ天命を知らない

定年前のアラフィフおやじの呟き、思ったことを綴る

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我が校のソフィーマルソー

 

疾風怒濤のような高校時代の思い出話を少し。


1980年、映画「ラ・ブーム」の主演女優ソフィーマルソーが話題になった。


屈託のない親近感の湧く笑顔、日本人にも好まれる可愛らしさ、我々若者は虜になった。

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ソフィーマルソーの笑顔

すると、誰からともなく

「2年2組の伊坂さんがソフィーマルソーにそっくりなんよ」

という話が湧いて出てきた。

「すぐ見に行こうや」

即断即決で部室を出て、ソフィーマルソーが待つ2年2組に向かった。


髪型はソフィーマルソーとは違って、女学生らしい段カットなのだが、顔立ちはソフィーマルソーだ。

みな、えらく感動して部室に戻る。

しかし誰も声をかける勇気はなく、なぜか、みんなで「ラ・ブーム2」の映画を見る計画を立てたりしていた。

 

ある日、後輩達が血相を変えて部室に飛び込んできた。

「ダン先輩、伊坂さんがモモコに載ってます。『中央高のソフィーマルソー』って紹介されてます」

「なにぃ〜っ」

いきなり横で聞いていた色白の三浦が、後輩から雑誌を取り上げた。

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ググって引っかかった女性アイドル誌Momokoの表紙

みんなで頭を突き合わせてモモコを覗き込み、三浦がページをめくった。

「どこに載っとるんか」

色白の三浦が中心に座って、後輩に怒鳴りながら乱暴にページをめくっている。

いつになく三浦の鼻息も若干荒い。

「真ん中あたりの読者投稿欄です」

後輩が伊坂さんの載っている場所を三浦に説明する。

三浦がモモコの真ん中あたりをパラパラめくっていると、

「あっ!そのページです」

三浦の手が止まり、食い入るようにページを覗き込む。

 

元々小さい雑誌サイズのモモコの読者投稿ページの10分の1くらいのサイズで、伊坂さんがカメラに向かって微笑んでいる。

『中央高のソフィーマルソー』

とタイトルがついている。

「ちっちゃいのぅ」

みんな思っていたが、口に出さなかった言葉を、華奢な金治(きんじ)が吐いた。

「うるさい金治!写真が悪いんよ、写真が。

誰が撮ったんか。こんな写真載せやがって」

色白の三浦がえらく興奮して伊坂さんをフォローする。

 

田舎の高校の美人レベルの扱いは、こんなものなのかもしれない。

しかし、他の投稿写真の女子高生はモデルのようなポーズをとっているのに、伊坂さんの写真は教室の机に座って、カメラに向かって微笑んでいるだけだった。

 

雑誌に載っていると聞いて、巻頭のカラーページ2〜3枚で恥じらいながらポージングする伊坂さんを想像していた我々は落胆し、部室はどんよりとした雰囲気に包まれた。

 

「編集者に見る目がないんよ。このトップに出とる奴は編集者とやっとるんやないか?」

かなり無理のある発言だと思ったが、色白の三浦は顔を紅潮させて、息をハアハアさせながらぼやき続けていた。

 

そして、この数日後に事件が起こる。

「伊坂さん掲載モモコ紛失事件だ」

 

数日後、後輩が話しかけてきた。

「ダン先輩、実はこないだのモモコがなくなったんです。知りませんか?」

「えっ? いつから? みんなで見よったやん?」

実はあの日から、みんな毎日部室に入ったら、まるで儀式のように、モモコの中の伊坂さんを見てから道着に着替えていた。

伊坂さんに直接話す勇気はないのだが、

「伊坂さんを見るとやる気が出る」

などと言って、毎日、小さな写真を眺めていた。

 

「みんなが見れるようにと置いてたんですが、なくなったんです」

悲しそうに後輩が嘆く。

「みんな練習前に見よったのに。誰か持って帰ったんかのぅ?」

部のみんなに「持って帰ってないか」と聞いたが、誰も知らないという。

 

しかし色白の三浦だけは違った。

「俺じゃない」と言うだけじゃなく

「そんなことよりも、誰が写真を撮ったかということよ」

とか

「写真を撮り直して送ろうか」

と別の提案を返してきた。ん〜?

 

結局、誰も三浦の提案に乗るような勇気のある奴はおらず、残念ながら伊坂さんの新しい写真がモモコに載ることはなかった。

そして、無くなったモモコが戻ってくることもなかった。

 

その後、影の噂で、あの時えらく興奮していた色白の三浦が犯人ではないかという話しで意見が一致した。

「言動がおかしかった」とか

「異常に熱心だった」

などと皆んなの意見が一致した。

 

「もう伊坂さんは三浦に穢された」

「たぶん、あのモモコはペコペコでパリパリになっているだろう」

などと影で噂になった。

 

ちっちゃな写真の載った雑誌のことなのに、面白おかしく噂になった。

 

円滑な部活動運営のために、結局、これ以上犯人を突き止めるようなことはなかったのだが、真犯人は誰だったのか、数十年経った今でも解明されていない。

(もう、そんな出来事があったことを、誰も覚えてないかもしれない)

 

 

 

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