気をつけろ!ゲレンデの恋
いよいよスキーシーズンである。
ここ数年は暖冬が続き、多くのスキー場が雪不足に悩んでいたが、今年はそんなことはなさそうだ。
しかしコロナ禍の中で、スキー場の営業がどうなるのかは不明である。
リフトで山頂に上る場合はいいのだろうが、ゴンドラ系や、ロープウェイ系は密室になるので、意外と三密対策が難しいのかもしれない。
ところで「ゲレンデの恋」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
「ゲレンデ・マジック」という言葉でも表現される通り、雪の反射で顔がきれいに見えるとか、ボーゲンで一生懸命滑っている姿がかわいらしいとか、いろいろな演出要素の中で恋が生まれるということだ。
往々にして、スキー場を離れた後は、すぐに分かれることも多いと聞く。
以前、このブログで「女性が友達を美人だと紹介した時の話」について書いたことがあるが、もう一つ「女性は自分よりきれいな人を紹介しない」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
一般的に体験するのは、合コンなどのセッティングをした際に、女性は必ず自分を引き立てるような友達を連れてくるというものだ。
ある時、4人でスキーに行くことになった。
男2人、女2人である。
男は私と仕事仲間の綾瀬(仮称)、女性の1人は綾瀬の同僚の苅田さん(仮称)で、苅田さんが一人女友達を連れてくることになっていた。
「絶対かわいい子を連れて来らせろよ」
綾瀬にきつくお願いしていた。
だが苅田さんが連れてきたのは、ひどいブ〇、花子(仮名)だった。
「綾瀬、どうなっとるん?」
綾瀬を問い詰める。
「いや、苅田さんが、明るい、仲がいい子を連れてきたいと言っていたから」
綾瀬の話では、女性は自分よりもきれいな友達を連れてこないとは思っていたが、苅田さんは可愛らしいので、彼女から数段落ちても大丈夫だろうと思っていたとのこと。
かなりのショックだ。なぜここまで...
スキーに行く気がいきなり失せたが、スキーを楽しむことに徹しようと心に決めた。
昼過ぎにスキー場に着き、駐車場の出口近くで帰る車を待つ。
そして、かわいらしい苅田さんを使って、車に声をかけさせる。
「もう帰るんですか?もし帰るんでしたらリフト券をいただけませんか?」
こういうときは、仲間にかわいらしい女性がいるのは得だ。男たちの下心を利用した作戦だ。
特に帰る時間に焦っていない我々は、東京に帰る時間を気にしているドライバーからリフト券を無料や安価でGETし、4枚揃ったところでスキー場へ。
スキーウェアに着替え、ゲレンデで待ち合わせる。
苅田さんは期待通りの可愛さだが、花子もミラーレンズになっているゴーグルを着け、見えているのは鼻先と口だけ。頭もかわいらしいニット帽をかぶっている。白を基調にしたウェアも流行りのものでかわいらしかった。
早速、皆で滑り出す。
その頃は、原田知世主演の「私をスキーに連れてって」が流行った時代。
直滑降の競争、ボーゲンで滑っている女の子に強制的にドッキングして滑ったりするトレイン、リュックに入れたビールを雪の中に埋めて冷やした後、山頂で飲むなど、当時のスキーの楽しみ方を大いに実践した。
みんなでムカデ競争のようにドッキングするトレイン 出典 i.imgur.com
ペアリフトやクワッドリフトに乗って話をしていると、出会ったときは、とんでもないブ〇だと思っていた花子は、ノリもいいし、話も面白い。
ミラーレンズになっている花子のゴーグルはキラキラして目も見えず、段々とかわいく思えてきた。
花子のアグレッシブなノリに、仲の良い苅田さんがキャッキャ笑うのも演出として良かったのだろう。
「あれっ?なんか花子のことを勘違いしていたのかもしれない」
と楽しく一緒に滑った。
もしかするとこれは、ゲレンデがとけるほどの恋が生まれる予感なのか。
そして、疲れたので、ちょっと山の中腹にあるミッドベースのレストランで休憩しようということになった。
スキー板の盗難防止のため、花子とスキー板を一枚づつ交換して、別々のところにセットして板を置く。
「簡単な方法だけど、これでも盗難防止になるんだよ」
と知ったかぶりをする。
テーブルの場所取りをして、各々食べのものを取ってきて、帽子、グローブ、そしてゴーグルを外した。
そして鼻先と口元が少しスキー焼けで赤くなった花子の顔を見た途端、揺らいでいた考えが現実に引き戻された。
「あっ、やっぱり俺の初見の印象は間違っていなかった」
ゲレンデの恋。危なく引っかかるところだった。という話である。
まだ若かりし頃、外見を非常に重視していたなぁ。
蛇足だが、コロナの時代の中で、マスクがゴーグルと似た効果を生んでいるのではないかとも感じている。つけている時は、目の印象から鼻と口のイメージを想像するのだろう、外した時の印象の違いはかなりのものだ。