スエズ運河を日本のコンテナ船が封鎖した事故についてまとめてみた
ヨーロッパとアジア、アフリカ、中東とを繋ぐ海上交通の要衝であるスエズ運河。
年間1万8千隻を超える船舶が航行し、1日あたりでは平均50隻の船が行きかう。
2021年3月23日、その重要路線を日本船籍のコンテナ船「エバーギブン」が塞いでしまった。
この座礁による事故で、世界の海上輸送物資の1割超が通過する大動脈を遮断したことになったのだ。
スエズ運河で座礁した巨大コンテナ船「エバーギブン」(2021年3月28日)
(c)AFP PHOTO / Satellite image (c)2021 Maxar Technologies
このコンテナ船「エバーギブン」は、日本最大の造船会社、今治造船が建造したもの。
船主(船の所有者)の正栄汽船(今治造船のグループ企業:愛媛県今治市)は、船を海運会社に貸して用船料を得ている。
運航は、世界でもトップ5に入るコンテナ物流企業、海運会社「エバーグリーン・マリン(長栄海運・台湾)」で、実際の航行は船舶管理会社ベルンハルト・シュルテ・シップマネージメント(ドイツ系)に乗組員らを手配している。
2021年3月23日 座礁
事故当日、スエズの天候は悪く、秒速20メートル以上の砂嵐が吹いていたそうだ。
このため当初は、視界不良と強風が座礁の原因と言われていたが、後日、技術的または人的なミスなど、複合的な要因だったのでは、との見方になっている。
運河の両サイドは水深が15.7mの喫水よりも浅いため座礁したことになる。
ARAB NEWS © 2021 SAUDI RESEARCH & PUBLISHING COMPANY
座礁した運河の水深が浅いところの浚渫作業
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2021年3月26日
夜までに座礁したコンテナ船の船尾が動き出したが、その後、潮位の急激な低下のため作業を中断。
2021年3月27日
スエズ運河の潮位が高まる大潮の時期を迎えたが、離礁作業は難航。
このため船体を安定させるために船の中に入れている「バラスト水」約9000トンを抜き、船体を軽くすることに。
船体が乗り上げた浅瀬の土砂を取り除き、タグボートを使って船体を正常な向きに戻す作業を進める
2021年3月28日
オランダとイタリアの大型タグボート2隻が紅海に到着。
スエズ運河庁は23日の座礁発生以来、船首を埋める土砂を取り除く浚渫作業を行い、28日までに水深18メートルまで掘り進んだと発表。
2021年3月29日
潮位が2メートルに達する午前の満潮時の時間帯に、大型タグボートも投入し、船体を動かす作業が奏功。エバーギブンは、そのまま自力で航行し、無事、離礁した。
スエズ運河の通航が再開され、待機していた400隻を超える船舶が続々と運河に入る。
30日の早朝までには、100隻を超える船が通航する見込みだが、渋滞の解消には最低でも3日程度かかる可能性があるとのこと。
損害賠償で日本の船会社は危機に陥るのか?
海運関係者によると、スエズ運河の通航料は約3000万~5000万円程度/回で、通航船舶は1日当たり平均約50隻では、1日封鎖される毎に15億~25億円程度の通航料の損失が生じることになる。
今回3月23日に座礁して、無事離礁できたのは3月29日ということなので、約7日間封鎖されたことになる(つまり単純計算では105億円~175億円の通行料の損失となる)
このため運河を所有・管理するスエズ運河庁は、被害額となる通航料、運河の修繕費などを、船を所有する正栄汽船(今治造船グループ)を相手に損害賠償を求める可能性が高いということだ。(船を運用している運航会社ではなく、船主に請求するのが通例とのこと)
船主である正栄汽船は、三井住友海上と東京海上日動火災、損保ジャパンの3社のほか、P&Iクラブの保険に入っており、仮に人為的なミスが原因だと判明しても、保険会社が賠償金を負担するため、経営自体がぐらつくようなことにはならないだろうということだ。
また、運河がコンテナ船「エバーギブン」によって封鎖されて、多くの船が足止めされたため、調べでは封鎖による遅延などに伴う損害額も1日当たり96億ドル(約1兆500億円)程度かかるだろうとのことだ。
ただし、今回のような座礁事故の場合、足止めでの遅延や、アフリカ大陸の南端 喜望峰を経由する代替ルートを使ったことよる損害に対する賠償は、船舶間での通念上は船舶を保有する各船会社の加入保険で対応するとのことで、正栄汽船へ請求されるケースは少ないようだ。
海上の通例は、陸上と違いがあるんですね。
それにしても船もでかいが、被害額もでかいわ。
全長約400mだもんね。日本最大級のビルを横にしても足りない長さだ。
東京タワー(333m)
あべのハルカス(300m)
横浜ランドマークタワー(296m)
虎ノ門ヒルズ森タワー(255m)
名古屋ミッドランドスクエア(247m)
福岡タワー(234m)
正栄汽船HPより
その後の話
【4月3日】
スエズ運河庁が、
今回の「エバーギブン」座礁事故で足止めされていた船舶422隻が全て通過したと発表。通常の運航状況に戻ったとのことだ。
3月23日に座礁。6日後の29日に脱出したが、通常化には更に5日の期間を要したことになる。
運河庁長官は、浚渫などの離礁作業などの損害額が「10億ドル(約1100億円)を超える」と述べている。額が半端ないっ。