子供の頃の思い出(親父のシャンプー)
中学生だった頃のある晩、親父が風呂上がりに頭をタオルで拭きながら、顔を紅潮させて、意気揚々と話し出した。
「最近のシャンプーはなかなかシャレとるなぁ」
居間にいた家族は、皆キョトンとして、あまり反応しない。
「泡立ちやすいように霧吹きみたいになっとる。あれは新製品かね」
皆、そんなシャンプーあったかなぁという感じで顔を見合わせる。
「んんっ?もしかして、それ黄色いヤツ?」
もしやと親父に思い尋ねてみる。
親父は、みんなの反応の悪さに気付いて、少し不安そうになって
「確か黄色やったと思う」と答えた。
「それシャンプーじゃなくて、バスピカやないん?お風呂洗剤よ」
親父は驚いた様子で頭を拭きながら
「誰がシャンプーのところに洗剤を置いとったんか。ただでさえ髪の毛が抜けてきとるのに、これ以上禿げたらどうするんか!」
既に、前頭葉部分と、頭頂部が、かなりキている親父としては、抜け毛の進行を早めるような刺激的な間違いにショックを受けたようであった。
その後も、
「握ったらプシューッと霧吹きのように液が出てきて、なかなかいいと思った」とか
「泡立ちは悪くなかった」とか、
家族の心ない質問に不満そうに答えていた。
今のようにボトル式のタンクが一般的なシャンプー容器になる前は、上部に穴の空いた容器のフタを緩め、逆さまにして液体を出していた。
お風呂洗剤のバスピカも、シャンプー同様のフタを持った容器だったが、ある時から、現代へと続く、スプレー式になったのだが、親父とその容器は初対面で、シャンプーの新製品と思ったのだ。
その後、バスピカによる洗髪が、頭皮と髪の毛にどのような影響を与えたかは不明だが、親父の禿げ化は順調に進んでいった。
既にその頃の親父の年齢を超えた私は、メンデルの法則に反することもなく、親父からの強い遺伝を受けて、今、まさに前頭葉、頭頂部が危ない。
サクセスしたり、育毛剤を使ったり、マッサージもしたが、進行を食い止めることはできなかった。
男らしく、潔く、バリカンや剃刀でズルっと、いきたいくらいだが、実際は、毎朝、鏡を見ながら、少し残った髪の毛を横に寝かせたり、後ろに持っていったりしながら、地肌を必死に隠している。
そして髪の復活を信じて、女性ホルモンに似た影響を与えるという豆乳を毎朝飲む「ソイミルク親父」になっている。
面目ないところである。