美のオリンピック ミス・インターナショナルで大活躍?した件
ミス・ユニバースとともに「美のオリンピック」とも言われる「ミス・インターナショナル・コンテスト」(正式名Miss International Beauty Pageant)というミスコンをご存じだろうか。
1968年~1970年に大阪万国博覧会を記念して日本で開催され、
2004年、2006年は中国・北京、
2008年はマカオ、2009~2011年は四川省成都で開催、
そして2013年以降は、ずっと東京で開催されている。
実は独身時代、この大会に関連した仕事をしたことがある。
まずはミスたちを受入れる会場をセッティングした。
私の身長は176cmで男性の中でもそんなに背が低い方ではないのだが、ミスたちの身長は自分よりも高く、歩き方も颯爽としている。(ヒールのせいもあるかな?)
我々が並べたチンケなスタッキングチェアでも、彼女たちが座るとハンス・ウェグナーデザインの椅子に見えるくらいのオーラだ。
少し小柄なミス・オランダと魔女のコスプレをしているミス・ルーマニアが、日本人スタッフの間では人気だった。
「昔からオランダ人女性はいいんだよ。だからダッチワイフというんだ」
と、本当かどうかもわからない話をしだす年配のスタッフもいた。
運営でバタバタしている中で、ミスの中に当然いる「ミス日本」が、何人もいるスタッフの中で私に話しかけてきた。
「ちょっとあなた。スタッフの方?」
「STAFF」と書いた名札を付けているから、どこからどう見てもスタッフなのだが、わざわざ確認してきた。
当時、独身だった私は、きれいなだけでなく、聡明そうなミス日本から呼びかけられただけで、かなりうれしかった。(俺は選ばれたのかな?)
「はい、スタッフです」
もう少し気の利いたことが言えれば良かったのだが、安直な返事だけしかできなかった。せめて名前くらい言えば良かったかと後悔した。
私の動揺を気にすることなく、ミス日本が話しかけてくる。
「ミス・ハワイのストッキングが破れて替えがないらしいんだけど、すぐに買ってきてくれない」
そんなこと私の仕事にはない業務だが、隣では申し訳なさそうな雰囲気でミス・ハワイが微笑んでいる。ここで断ったら男がすたる。
「それは...。どんなストッキングがいいんですか?」
黒髪の、エキゾチックな女性だったので、我々からすると外国人女性が付けているイメージである、ガーターベルトとガーターストッキングを使っているかもしれないと思い確認した。
Allison Chu – Miss Hawaii 2016 – c2016
Paul Hayashi Photography – All Rights Reserved
(注)私が対応したミス・ハワイは、年代が違うのでこの女性ではない。
私の質問をミス日本がミス・ハワイに英語で話し確認してくれた。(と思う)
やはり聡明なんだ、ミス日本。
「パンストでいいと思うわ。黒のものを急いで買ってきて」
言葉が上から降りてきた。
聞きたいことはいろいろあったが、何を聞けばいいかもわからず、その場に存在していることが辛かったので
「わかりました」
とだけ返事し、急いで近くのスーパーマーケットに向かった。
スーパーは2階建ての建物で、1階が生鮮食料品、衣料品は2階に置いていた。
婦人下着の横にストッキング売り場があったのだが、今までストッキングなんて買ったことがないので何を買っていいかわからない。
いくつかを取ってみていると、50歳前後のおばちゃん店員が不審な顔つきでやってきた。
「何かお探しですか?」
文章ではイントネーションが正確に表せないが、完全に何か疑っている聞き方だ。
「ストッキングを買いに来たんですけど、よくわからなくて」
おばちゃん店員の目は、まだ疑っている。
「どなたがお履きになるんですか」
おばちゃん店員は、俺が履くと思っているのかもしれない。
「近くでイベントをしていて、女性から頼まれたんです」
おばちゃん店員は少しホッとした雰囲気で、
「どれくらいの身長の方ですか?」
とサイズの見当をつけるために質問してきた。
「身長は私より高いくらいです。外国の方で、足の長さは私の1.5倍くらいはあるかもしれません。黒いストッキングを買ってきて、と言われたんですよ」
おばちゃん店員が完全に引いている。
「うちには大きいものでも日本人用のLLまでしかないですよ」
確かにそうだろう。私よりも大きな女性はあまり見たことがない。
代わりに私が試着する訳にもいかず、とりあえず予備が1枚もなかったらいけないので、あまり高くなくて、2枚入りの福助の黒いストッキングを買うことにした。
「これくらいが普通ですか?少しくらいサイズが違っても伸びますか?」
と、おばちゃん店員に尋ねた。(今思えば全くの愚問だ)
「そ、そうですねェ、大丈夫じゃないですか」
私の「普通」という質問も微妙だが、おばちゃん店員の曖昧な返答も仕方がなかったんだろう。
急ぎ会場に戻り、ミス日本にストッキングを渡す。
後ろにはやはりミス・ハワイがいて、ニッコリとPRICELESSの笑顔のお礼をくれた。
「福助の奴なんですけど、大丈夫でしょうか?」
ストッキングを買ったことがない男のなさけない言い訳をする。
「たぶん大丈夫だと思うわ。ありがとう」
ミス日本の心のこもっていない笑顔のお礼だった。
彼女から見たら、私は名もなき「STAFF」なのだ。
もしかすると数あるSTAFFの中から「こいつなら言うことをきくだろう」と見抜き、私に話しかけてきたのかもしれない。
ズバリ、お見込みのとおりである。さすがミス日本、完敗だ。
運営に戻り、バタバタしていると向こうから、ステージから降りたミス日本とミス・ハワイが歩いてきた。
ストッキング大丈夫だったかな?と心配している私の横を、ミス日本は目も合わさずに、さっそうと通り過ぎた。
しかしミス・ハワイは、ストッキングを指さして、英語で「&$#*?=・¥%」と話して通り過ぎた。
意味はわからなかったが、きっと
「あなたの買ってくれたストッキングぴったりだったわ。ありがとう」
などと言ったのだろう。
ニッコリと笑顔で手を振り、彼女とはその後二度と会うことはなかった。
そしてミスハワイの思い出として、私の右のズボンのポケットに、彼女の笑顔の代金「福助ストッキング 2枚組 ¥980-」と書かれたスーパーのレシートが残り、財布からは980円が消えていった。