女性が友達を美人だと紹介した時の話
まだ独身だった頃、別の営業所に新しい女性社員が入社した。
どんな女性だろうと噂をしていたら、うちの営業所の女性社員が
「吉野さんのことでしょ。私の友達です」
という。
「ということは、俺の2つ下かな。かわいいの?」
と確認すると、
「かわいいというより綺麗という表現の方がぴったりですね。日本人離れしていて、背も高くて、ダンさんと同じくらいかな?外国人みたいなんですよ。テレビの「今朝の美人コーナー」にも出たことがあるんですよ。アメリカの東海岸の方に留学してたので英語もペラペラです。90-60-90といわれているダイナマイトボディですよ」
と話してくれた。
身長175cmくらいで、90-60-90のダイナマイトボディとは、ルパン三世の峰不二子か!
絶対会いたい。すぐにでも飛んで行きたい!
と思っていた。
しばらくすると、パンフレット作成のために、外国人数十人をアテンドする仕事が入ってきた。
即座にピンときて、
「私は英語が話せないので、新人の吉野さんを貸してもらえませんか」
と、別営業所の所長に直談判。
新人の吉野さんに当日の通訳をしていただくことになった。
まだ電子メールもなかった時代なので、電話とFAXでやり取りして、当日の段取りを打ち合わせた。
「今朝の美人」
「日本人離れしたダイナマイトボディ」
というキーワードが、私のモチベーションを掻き立てた。
彼女の「私の英語で大丈夫でしょうか?」
という控えめで丁寧な口調が印象的だった。
細かな点にも気がついて、なんか末長くベストなコンビになれそうだと、気分は高揚した。
吉野さん、どんな感じかな?
ブルックシールズやフィービー・ケイツ、メグライアン?
妄想がどんどん広がっていった。
東洋的な魅力を持ったフィービーケイツ
さてアテンド当日
早めに準備を終え、吉野さんが来るのを待った。
ここから貸切バスに乗り込み、外国人たちを迎えに行くのだ。
すると
「遅くなりました」
と女性の声が聞こえた。
「吉野さん?」
「はい、吉野です。今日はよろしくお願いします」
そこには確かに、目鼻立ちがハッキリしていて日本人離れした顔、身長175cmくらいのダイナマイトボディの女性社員が立っていた。
す、すごい、これは…
吉野さんを一言で説明するとしたら、洋風の和田アキ子?だった。
かなりの威圧感である。
若い頃に柔道で鍛えた私でなければ、見た瞬間に倒れていただろう。
「おはようございます。ダンです。今日はよろしくお願いします」
とりあえず社交辞令的な挨拶はしたものの、一言、怖い。
すごい迫力だ。オーラが半端ない。
しかも彼女の英語がすごかった。
黒人女性の魂の叫び、ブルースやジャズを聴いているような迫力の英語。
日本語を話す時はおしとやかで高い声なのだが、英語を話す時は1オクターブ低い声で、ドスが効いていた。
和田あき子のリサイタルを見ている気分だ。
それに加えて、一緒にアテンドしていて
「ダンさん、次はどうしますか?」
と相談してくるときに、彼女のパーソナルスペースが、普通の日本人よりも狭いのか、90-60-90のダイナマイトボディがドンドン迫ってくる。
私のプライベートエリアに断りもなく入り込んでくるので、これがまた恐怖に拍車をかけるのだ。
そして彼女の胸が、私の腕や背中にバンバン当たってくる。
迂闊に振り向くとチューしてしまいそうなところまで顔がきている。
「あの〜おっぱいが当たってます」
と言いたくなる。
自動搾乳機ミルカーを付ける乳牛くらいのデカさだ。
しかし、胸がバンバン当たっているにもかかわらず、私の海綿体には全く血流が流れてこず、体内に逆流、縮こまっている状態だ。
本能的に完全にビビッている。
戦わずして、負けた状態だよ
仕事が終わった後に食事でも、と思っていたが、事前にレストランを予約していなかった自分を褒めてやりたくなった。
後々、彼女と高校時代に同級生だったという男性後輩社員と話をすることがあった。
「あぁ吉野さん知り合いですよ。90-60-90というよりは、100-80-120くらいじゃないですか。高校時代のあだ名はゴリ美でした。すごい迫力でしょ」
女性に対して「ゴリ美」とは、ひどいあだ名だ。若者は残酷だ。
吉野ゴリ美。
彼女の名前は、私の風船のように膨らんだ大きな期待を一瞬にして打ち砕いた女性として、深く心に刻み込まれた。
女性がいう「美人」とは、なんて当てにならない言葉なのか。
そんなことを真剣に考えさせられた経験だった。